ぼくたちは、なぜかマリオカートに乗っていた。運転していたのは、新卒で入社した時の同期のヤツ。ぼくがぼーっとしていると、
ちゃんと見てって言ってるやん!!
と、彼は金切り声を上げた。
前方にタイヤが転がっていた。どこかの誰かが上の方から投げ入れたらしい。バウンドしながらこちらをめがけて転がってくる!!
ヤツは既のところでハンドルを切り、衝突は避けられた。
あたりを見回すと、タイヤに衝突したり、ドラム缶に押しつぶされたり、穴に落っこちたりして、クラッシュしているカートがそこかしこに捨て置かれている。あのタイヤがぶつかっていると、ぼくらもそうなっていたわけか!理解した!!
今ではもう年賀状でしか付き合いのないヤツと、なぜ二人でマリオカートに乗っているのか分からない。しかし、今考えないといけないのは、クラッシュを避けつつ、ぼくたちは大阪の南部から北の方、淀川を目指して走って行かなくてはならない、ということだ。
なぜ淀川なのか、淀川に何があるのか、この時点では分からない。
もしかしたら、海老江の淀川河川敷の野球のグラウンドに、何かを置き忘れていたかもしれない。何を置き忘れたのかも覚えていない。なぜ海老江の野球のグラウンドなのかも分からない。
幾度となく、タイヤとドラム缶と穴ぼこの危機を避けながら、ぼくらはなんとか無事に走っていた。「ぼくら」は無事に走っていたというのは語弊があるかもしれない。運転していたのはヤツだし、ぼくは「上!右!前!」とヤツに伝えるだけだったから。
あたりが静かになり、どうやら危機は過ぎ去ったようだ。ぼくらは深日港に着いた。
いや、ちょっと待て。目指していたのは淀川だったはず。しかし、着いたのは大阪の南の果ての深日港。まったく方向が違うではないか。
まあ、いい。
とりあえず、カートを降りる。海が綺麗だったので、服を脱いで泳いでみた。海の水は優しく温かく心地よい。空の色は黄色く霞んでいた。春霞かもしれない。
春に大阪の海で心地よく泳げるのか?!
そんなことはどうだっていい。セーラー服を着た女子高校生が浜辺からぼくらを見ていて、気がつくと、いつのまにか彼女も一緒に泳いでいた。楽しかった。
しばらく泳いでいくと、沖合は浅瀬になっていた。手の届くところにエビやカニや魚がいて、面白いように捕まえることができた。しばらくの間、ぼくと彼女は浅瀬で夢中になって遊んでいた。どうやらヤツはどこかへ行ったらしい。でも、そんなことはどうでもよかった。ヤツと一緒にいるよりも、彼女と一緒にいるほうが遥かに楽しいし、心が和んだ。
しばらくの間、浅瀬で遊んで、浜へ戻ろうということになった。泳ぎ終わって海から上がると、堤防の下だったのか、建物の影だったのか、水着から制服に着替える彼女の姿を見てしまった。彼女は後ろ向きで、彼女の背中が見えていた。彼女の腰からおしりにかけての曲線がとても美しかった。むかし乗っていたヤマハのSRX400のタンクの曲線美のようだ。
恥ずかしかった。彼女の裸体を見てはいけないと思いつつも、見てしまった。とんでもないことをしてしまったものだ。男子たるもの、女性のハダカを見ると興奮するものであるが、興奮するどころか、このときはうろたえてしまった。
そういえば、彼女は誰なのだろう?何となく、ぼくの配属先の職場で働いていていたアルバイトの女の子のような気がする。背がすらっと高く、髪が長くて後ろでくくってポニーテールにしていて、一重まぶたのスッキリした顔立ちの美人な女の子。ぼくは彼女に好意を寄せていた。彼女もぼくに好意を寄せていたに違いない。
だって、ぼくが退職すると伝えたときに、泣いてくれたのは彼女だけだったから。
ぼくが退職したため、それっきりになっていた。なぜ今になって夢に現れたのか、よく分からない。